東京家庭裁判所 昭和57年(少)13024号
主文
この事件を東京地方検察庁検察官に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、
第1 Aと、自動二輪車を使用し通行中の女性の後方から追いついてそのハンドバック等をひったくることを共謀して
(1) 昭和56年11月16日午後9時10分ころ、東京都新宿区○○×丁目××番××号○○荘前路上において、歩行中のF子が右手に所持していた同女所有の定期券、身分証明書等6点在中のハンドバック(時価合計5万5000円相当)を同女からひったくって窃取し
(2) 前同日午後10時55分ころ、同都練馬区○○町××××番地の×先路上において、自転車で走行中のG子所有の現金5600円位およびダイヤの指輪、キャッシュカード、身分証明書、運転免許証、ガスライター等21点位在中のボストンバック(時価合計21万2100円相当)を自転車の前部荷籠からひったくって窃取し
第2 Cと共謀のうえ昭和57年5月29日午前9時30分ころ、前同区○○×丁目×番×号先路上において、H所有の自動二輪車1台(時価30万円相当)を窃取し
第3 前同日午後5時ころ、前同区○○×丁目××番××号○○荘アパート敷地内において、C所有の自動二輪車のチェーン1本、バックステップ1組(時価3万3000円相当)を自動二輪車から取りはずして窃取し
たものである。
(適用すべき法令)
いずれも刑法235条、なお第1および第2の各事実については、さらに刑法60条
(検察官送致の理由)
本件は、バイク盗(1件)、部品盗(1件)及びひったくり(2件)の事案である。本件バイク盗については、少年は、当初頑強にこれを否認し、捜査官に対して極めて挑戦的な態度を持していたもので、その後自供に至ってはいるものの、共犯者(C)の供述との間にかなりの喰違いがあって、自らの刑責を減じようとする意図が窺える。また、本件部品盗は、本件バイク盗での共犯者(C)が当該事件で身柄が拘束されるや、その間にその者のバイクを大胆にも白昼工具を用いて解体しチエーン等を盗取したものであるところ、少年は検察官に対して借りたに過ぎないと供述しているものである。これら両件はいずれも情状悪質であって、少年の年齢、前歴、資質に照らし、刑事処分によってその責任を明らかにするべきものと思料する。
また、本件ひったくりについては、共犯者Aの具体的且つ詳細な供述調書があり、同調書の信用性は十分に高い。付添人らから指摘されている種々の疑問点も、同調書の信用性を揺るがすに足りないものと思料する。その後の補充捜査によって、同調書に基づき焼却炉から発見された物品がひったくりの被害者の物であること等も裏付けられた以
上、少年に対する嫌疑は十分で、これも公訴を提起するに足りるものであると思料する。しかるに、少年は、ひったくりを頑強に否認し、終始徹底して争う姿勢を貫いてい
るものであって、情状は極めて悪質である。夜間単独通行中の女性を狙ってのバイクによるひったくりという罪質に照らし、これについても刑事裁判手続によって少年の責任
を明らかにし、バイク盗、部品盗と共に刑事処分に付するのが相当である。
なお、本件は、昭和57年7月29日に当庁がなした検察官送致決定に対し、別紙記載の理由を以て、右決定の対象事実のうちの1件のひったくりを除外し、残余の非行事実につき再送致がなされたものであるところ、右除外された1件のひったくりについて、少年からアリバイ等の主張がありその裏付捜査が未了であるため、現段階での訴追は相当でないとする検察官の上記理由判断は、「公訴を提起するに足りる嫌疑」の存在を前提としつつ、「送致後の情況」(少年法45条5号但書)を理由とするものの如くでありながら(別紙理由記載参照)、その実質は、示談の成立、保護監督態勢の強化、被害者の宥恕等通常同条号但書の「情況」として解釈される事情に基づくものではなく、嫌疑そのものに不起訴理由を帰着させるものであって、矛盾しているばかりでなく、嫌疑に関する事情はすべて「公訴を提起するに足りる」ものかどうかによって決すべしとするのが同条の趣旨であるから、検察官は再送致に際しては、再送致する事件について捜査を遂げる(同法42条)ばかりでなく、除外する一部の事件についても捜査を遂げ、その結果該一部については公訴を提起するに足りる嫌疑がないと判断するに至ったことが必要であって、一部事件についての捜査未了を理由とする再送致はこの要件を具備しない違法なものというべきであるが、さらに、上記除外されたひったくりについて、記録(除外されたひったくりについても記録は共通)を精査するも現段階で確たるアリバイ証拠は見当たらず、反対に、本件2件のひったくりと同様有罪立証に十分な共犯者の供述その他が得られてあるから、これら証拠の状況に照らし、公訴を提起するに足りる嫌疑があるものと思料されるので、これについても、当初の検察官送致決定に基づく起訴強制を免れることはできないものと思料する。(なお、以上の点から本件再送致が要件を具備しない違法なものであるとしても、再送致自体を無効ならしめるものではないと思料するので、付添人主張の形式裁判を以て終局することはしない。)
よって、少年法20条を適用して主文のとおり決定する。
別紙
理由
送致後の情況により訴追を相当でないと思料する。
即ち、検察官送致となった犯罪事実中、第1(1)のAと共謀の上、昭和56年11月13日午後11時55分ころ、東京都練馬区○○×丁目×番××号先路上でE子からその所有に係る現金4500円ほか物品約23点(時価合計3万9000円相当)をひったくって窃取した事実については、被疑者から審判の過程で新たにアリバイ等の申立てがなされており、これについて関係人の取調等の裏付け捜査が未了であるため現段階で訴追することは相当でないと思料するところ、右事実は、被疑者の検察官送致となった犯罪事実中、情状の上で中心となるべき非行の一部であり、その余の被疑事実をもって刑事処分に付するのは必ずしも相当でなく、被疑者については少年院送致処分に付するを相当と認め、本件を東京家庭裁判所に送致する。